2016.6.23
設計の池田です。
先日、白井晟一設計の幻の住宅「杉浦邸」の見学会に参加して来ました。
なぜ幻なのかと言うと、この住宅は故あって白井晟一の設計リストには入っておらず、
これまで公表もされていない住宅だったのです。
この程、施主の方の都合により転売され解体する事になってしまった為、
施主の方のご厚意により、最初で最後の見学会が開催されたのです。
屋根にむくりがつけられた和の佇まいの住宅で、約40年の時を経て所々傷みはありますが
丁寧に住まれて来た事が分かり、決して古さを感じない凛とした住宅です。
和の建築に共通する事ですがこの住宅の魅力は軒と窓との関係ではないでしょうか。
1500mm張り出した軒は室内に落ち着きのある陰影を作り出し、風景を切り取り、
軒下の半屋外空間が庭と室内をつなげます。
雨樋は無く、雨は軒下に作られた那智石が雨を受ける作りに。この日はちょうど雨が降っており
和室の窓辺に座り軒からの雨垂れを眺めているだけで何時間でも過ごせるようなとても素敵な空間でした。
屋根の銅板も通常は捨て谷と言って一本溝作って納めてしまうコーナーの部分まで
一つ一つ丁寧に手折りで作られていました。
通常は見えないこんな所も雨を綺麗に感じさせる為の工夫なのかもしれません。
裏千家の茶室としても使われた和室の窓は高さ1500mm程度に低く抑えられていて
庭だけを上手く切り取る装置になっていました。
建具はガラス戸、ガラリ戸、網戸、障子と4種類を季節や時間、使い方にあわせて調整できるようになっていて
すべてを壁の中に引き込み入れる事ができる作りになっていました。
居間のガラス戸には一部障子が取り付けられていて、ソファに腰掛けた時に隣家が見えてしまう部分を隠し、
庭と空だけが見えるようになっていました。
一見全面開けてしまった方が解放感があるかとも思えますが、人間は隠れた部分も脳が勝手に景色をつなぐため、
まるで街中に建っているとは感じられないような落ち着いた庭との繋がりが作り出されていました。
さて、この住宅がなぜ白井晟一の設計リストに載らず幻になったのかですが、
実はこの住宅はもともと白井晟一の息子の白井昱磨がRC構造の2階建てとして設計を終えていました。
しかし昱磨が海外出張中に晟一が設計をイチからやり直し木造の2階建てに設計変更をしてしまったのです。(笑)
この為、昱磨のS邸原案は「白井晟一全集」に収録されていますが実際に建っている木造案は収録されなくなったのでした。
施主である杉浦氏が60歳の時に設計を依頼してから99歳で亡くなる1週間前までこよなく愛し住み続けられた事が分かる
とても素敵な見学会でした。
残念ながら取り壊される事に決まってしまいましたが、今回見学会を開いて頂いた杉浦氏に感謝し、
この日の経験を少しでも仕事に活かせるように研鑽を続けて行きたいと思います。
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