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2014.9.9

アイカ現代建築セミナー 隈研吾「小さな建築」

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設計の池田です。

先日、芝大門のメルパルクホールにてアイカ工業主催の「現代建築セミナー」に行ってきました。
世界の著名な建築家を招いて毎年開催されている講演会で、今回は隈研吾氏による「小さな建築」という講演でした。
隈氏と言えば近年では浅草雷門の前に建った浅草文化観光センターを見た事がある方も多いかと思います。そのほかにも青山の根津美術館や新潟県の長岡市役所など日本はもとより世界で活躍をされています。

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浅草文化観光センター

「小さな」建築という題名なのに大きな建物ばかりじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、氏の言う「小さな」という言葉は単に全体の容量の大小では無く、「人に対するスケールの小ささ」を言うのだという事でした。

今まで都市や建築と言うものは自然災害の対策や人間活動の拡大の為、「大きさ」を求め巨大化して来ました。道を広げ、頑丈な建物を作り、広大な床面積が必要な為に超高層の建築を生み出しました。
氏はその中でも同じ大きさの建物でも小さな部材構成で作ると建物がやさしく人に近くなると言い、「小さな建築」を追い求めて来たのです。
また、氏の建築の特徴の一つでもある「木」で作る事でも人に近づく建築が出来るとの事でした。

また、「小さな建築」とする為には地元の材料を使い、地元の職人の技を使う事だと言います。
その一つが栃木県那須郡那珂川町にある広重美術館です。

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根及び壁には地元の里山から採れた杉材を用い、内壁は地元の和紙職人の和紙を使い、床材には地元の石切り場で取れた石を使いました。
遠くの産地で採れた材料を使うとなるとやはり東京から輸送してくる必要があり「東京に依存し、東京を向いた建築」になってしまうと言います。
計画地の裏手には自然の残された里山があり、神社が建っていました。その昔は生活に必要な物はすべてこの里山から供給され、生活の根幹にありましたが、現代では物流や人はすべて東京から来る為、その幹線道路に沿い街か作られ、いつしか町は里山に背を向けるようになってしまいました。
もう一度この里山に目を向けるため、この美術館のエントランスは山に向かって伸び、来館者はこの里山を一度見てから施設に入る形に計画されました。
こうして地元の材料を使い、地元に根ざした美術館が出来上がったのです。

木の小さな部材を使った氏の建築でもう一つは高知県高岡郡梼原にある雲の上のホテルにある「木橋」です。小さな部材で組み上げて作られたこの橋はホテルから温泉施設までにかかる橋です。橋と言っても屋根がかかり、建具で仕切られた立派な建築のひとつです。

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昔ながらく木組みの技術を使いこの大きさでありながら釘等を一本も使わずに建てられているそうです。橋という大きな建物なのに小さな木を組み上げて作られている為、不思議と威圧感を感じない「人間のスケール」に近い建物になっています。

最後にもう一つは冒頭でも紹介した新潟県長岡市役所です。
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この市役所はもともと郊外にあった市役所を中心地に移転させた珍しい市役所です。
なぜ、珍しいかと言うと近年市役所はその役割が多岐にわたるようになり大きな床面積が必要になっており、今まで中心地にあった物では容量が足りない為郊外に新しく大きな役所を建てるという形が多いのです。
長岡市もかつて同じように郊外に大きな役所を建てましたが、町の中心地は市民の足が遠のき活気が失われていきました。
そこで現市長が市役所を中心地に移転させる事を決めたのです。
勿論そんなに大きな面積を取る事は出来ません。その為、施設が足りなくなると批判も上がりました。しかし市長は「足りない分は周辺の民間の施設を借りれば良い」と言いました。確かに民間のビルなどを活用する事で地元の空きテナントを埋める事もできますし、それぞれを行き来する事で人の往来も生まれます。地域にお金が落ち、人の活動が生まれるこれも「小さな建築」の一つの効果かもしれませんね。
そして驚きなのはただでさえ「足りない」床面積の約半分は市民の活動スペースにあてられているという点です。さらに、この市役所には食堂がありません。市民活動の為に集まった人々が施設の中だけでは食事が足りない為、近隣の食堂に行く事でまた活性化されるという仕組みだそうです。
一つの施設ですべてを満たす事を目指す事をせず、周辺の施設と関係を持つことで街全体を活性化する素晴らしい建物になっています。

この「小さな建築」と言うテーマは私たちの仕事でも取り組んでいるテーマの一つです。
依頼を受けて住宅を設計する際には敷地周辺の状況を観察し、風の吹く方向、光の入る場所などを考えてその住宅を提案します。
「窓を閉め切ってエアコンを掛ければ快適」という一つの建物で完結する事無く、周囲の環境と関係をもって窓を開けると風が通り、光が差し込む。そんな住宅の提案をこれからも行っていきたいと改めて思った講演会でした。

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