2013.10.8
先日、八王子市夢美術館で開催されていた建築家 坂本一成氏の展覧会へ行ってきました。
坂本一成氏は地元の八王子市出身で日本を代表する建築家のひとりです。
坂本氏は住宅を中心に設計活動と同時に武蔵野美術大学、東京工業大学で教鞭をとり、研究室からは現在その活躍がめざましい多くの建築家が巣立っています。
氏の建築作品を読み解く上で重要な事は、氏の「建築を自由にする」という姿勢です。
これは設計上の物理的制約からの自由というだけではなく、社会や生活の中にある建築や住宅の既存の有り様からの自由という意味もあります。
例えば私たちが良く使う○LDKというタイプの間取りは氏の住宅で使われる事はありません。代わりに、中心となる部屋を「主室」そして室と室をつなぐ「間室」、中庭は「外室」といったように部屋を用途を前提とした名前で部屋を定義する事がその住宅の構成を不自由にしていると考えているからです。
今回の展示は展示方法にも新しい試みが見られました。
それは、作品ごとの展示方法で、写真を引き伸ばして大きなタペストリーを作りその横に模型と説明書きを書いている形になっていました。
これが今回の展示で一番大きかった写真です。
手前にいる人と比べるとその大きさが見て取れると思います。
通常のサイズの写真ではその建物は周囲の展示室と同時に目に入り俯瞰的な視点になってしまいますが、
これだけ大きなサイズの写真にすると、視界に入るものは写真だけになりあたかもその建築の場所に立って居るかのような錯覚さえ覚え、主観的に感じる事ができます。
そして模型で俯瞰的な形で全体を捉える事で氏の建築に対する考え方が一体的に感じる事ができました。
そして何よりうれしい事が展示されている建物の実施図面を見る事が出来た事です。
とても貴重な図面を見る事が出来て、とても勉強になりました。
坂本氏の初期の作品の特徴は敷地をめいっぱいに使い壁を作り、壁に囲われた外室(中庭)を取る事で
都市のなかにある住宅に自由を与えている事です。
この形は「家型」の立面形と合わせて初期の代表作の水無瀬の町屋をはじめ雲野流山の家や散田の家、代田の町屋などによく見られます。
近年ではこの形式は変化を見せ、近年の評価が高いHouse Fは家型という板状の面材によって内部空間が内包された構成から脱却が見られ自由な架構による囲いと覆いと地形化された床で構成されています。
近年の作品であるHut Tでは
完全に外部に開かれた形になっています。
この建物のもう一つの特徴は
極限まで階高を抑えてあり周囲の崖と植物からの突出を抑えている所です。
なんと2階の天井高さは1.7mしか無いのです。
軸組み模型の中にいる人物スケールと比べても天井の低さが良く分かります。
外から一見すれば少し階高の高い平屋にも見えてしまいますね。
そしてこの展覧会のもう一つの見どころは現在進行中の案件であるHouse AO の1/3の巨大な模型です。
美術館の天井いっぱいの大きさの模型。
もう模型と言うより子供の身長なら十分中に入れそうな大きさです。
住宅の設計をしている者の一人として今回の展覧会は氏の「建築を自由にする」という考えを
頭と体両方で感じとる事ができ、とても勉強になるものでした。
池田大基