2013.8.31
設計の池田です。さて、前回の続きです。
そして「表参道ヒルズ」の話になりました。
表参道ヒルズは行った方も多いと思いますが、建物は地上3階地下3階の6層からなっています。
建物の高さは表参道の顔であるケヤキの並木の高さより低く抑え、
内部の昇降は表参道の坂道と同じ1/20の勾配で作られています。
そして1棟だけ当時の同潤会アパートを再生し保存してあります。
関東大震災後の復興住宅として作られた同潤会アパートは、
当時築80年を超え老朽化が問題となり各地で取り壊し、建て替えが行われていました。
同潤会青山アパートに建て替えの話が出たのは、実は表参道ヒルズが出来る7年も前の事になります。
計画当初、何十人もの地権者との話し合いでは、建て替えの賛否や個々の意見の違いなどから
話がまったくまとまらない状況でした。
氏は毎回の打合せに自らが必ず赴き話し合いをして、徹底的に相手の話を聞く事によって、
地権者との信頼関係を徐々に強くする事で計画をまとめ上げ計画を成功につなげたのだそうです。
前回ご紹介した2つの建物と合わせてこれらの建物に共通する部分は
氏の「誰の真似もしない」という信念と「何に対しても先ずやってみる」という力強い姿勢だと思います。
あらゆる困難な状況に対し、「○○だから難しい」「△△だから無理」という言いわけを探すのではなく
「こうすれば出来るかも知れない」「こうなればよりよく出来る」という事を探し出し、
それを信じて突き進む事で独創的で世界的に認められる建築を数多く作り出しているのだと感じました。
氏は「これらの建築は日本の施工技術が無ければ絶対に出来なかった」ともおっしゃられていました。
日本の施工技術は世界でトップにあると言い、こんな話をされていました。
東京ミッドタウンにある「21_21 DESIGN SIGHT」はディレクターである三宅一生氏が手掛けてきた衣服デザインの仕事の象徴として「一枚の布」というテーマがあります。
このテーマに沿い屋根は約54mの一枚の鉄板を折り曲げて作り、内部には11mもの長い一枚の複層ガラスを
使用しています。
この美術館が出来た当時、安藤氏は海外の建築家から「この建物は他のどの国で作っても成立しない。
屋根は歪み、こんな綺麗に仕上げる事は不可能だ。」と言われたそうです。
それだけの高い技術力が日本の職人にはあり、この世界最高の技術力を保ち続けなければ
世界と戦う事は出来ないとおっしゃられました。
私たちも1技術者としてこの技術力の保存と育成に努めていく義務があるのだと感じました。
そして氏は最後に「誰が使うものかを考える事が重要である」とおっしゃられました。
建築と言うと建物が主役に感じられがちですが、その場所には必ず住む人、使う人が居ます。
その人たちの要望や声にならない声を丁寧に聞き出し、真摯に対応する事で住む人、使う人が
本当に幸せになれるような建物を作り上げなければいけないと言う事でした。
私たちもこの仕事を通し、お客様に喜びを与え、本当に満足していただけるよう
努力を続けていかなければならないのだと感じました。