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2014.4.23

人間のための建築~建築資料にみる坂倉準三~

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設計の池田です。

先日、国立近現代建築資料館で開催されていた「人間のための建築~建築資料にみる坂倉準三~」展に行ってきました。

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「国立近現代建築資料館」と言うと聞きなれない人の方が多いかと思いますが、上野にある「旧岩崎邸」というと分かる方も多いかと思います。この旧岩崎邸の敷地の一部に作られたのが「国立近現代建築資料館」です。

今まで美術・芸術の一部としての建築関連の展覧会などは我が国でも行われてきましたが、この資料館は名前の通り建築に関する資料の収集、保管、展示、研究を目的とする専門的な施設です。多くの日本人建築家が世界で活躍するなか、ようやくこういった施設が出来た事は建築に係る人間としてとてもうれしい事です。

常に展覧会が開催されているとまではまだまだ行きませんが、もし「旧岩崎邸」に行くことがあったら、岩崎邸の入場券で入れますので是非こちらにも足を運んでいただければと思います。「旧岩崎邸」自体もとても素晴らしい近代建築ですのでそちらの案内はまた今度…。

さて、展覧会の内容に戻りますが、みなさんは「坂倉準三」という建築家をご存じでしょうか?
氏は「モニュメンタルな公共建築によって名を成した」とか「住宅建築を得意とした」などのジャンル別の位置づけを許さないとても幅広い分野で活躍した建築家です。
国際的にも評価の高い「神奈川県立近代美術館(鎌倉館)」や「パリ万博日本館」などの文化、公共施設を手掛けたかと思うと、個人住宅や学校、果てはガソリンスタンドや高速道路の料金所のゲートウェイなどその作品は多岐にわたっています。
身近なところでは「新宿駅の西口広場」を手掛けたのも坂倉準三氏ですので知らないうちに坂倉建築を利用している人も多いかもしれませんね。
氏は近代建築の巨匠、ル・コルビュジエのアトリエで働いた後の1937年のパリ万博の日本館の設計で華々しくデビューしました。今回の展示にはこの日本館の模型も展示してあり、斜面を有効に利用したスキップフロアの展示空間が良く分かる素晴らしいものでした。

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ル・コルビュジエのあまりにも有名な「家は住むための機械」という一文が、短絡的に家は「機械」だという単純な機能主義宣言だと解釈され批判される中、ル・コルビュジエを一番近くで見てきた坂倉氏は当時「現代建築」誌に「巴里万国博日本館について」と題する文章を寄せ、その中でこの批判に強く抗議し、この文章の真意は、家は「住むための」ものだと言う点にあると明言しています。「住む」という事はそれぞれの土地における人間の営みであり、各地の気候風土、人情、習慣の違いによる地域性があり、近代的な素材と技法を駆使しながら、地域の伝統をも生かす。近代と伝統を結びつける役割こそが家の住むための機械という意味であると言っています。

坂倉準三氏はまさにこの「人間のための建築」という事を実践した建築家だったのです。
今回の展示は当時の貴重な設計図書や模型などが大量に展示されていてとても素晴らしい展覧会になっていました。

さて、坂倉建築を体感できる場所を最後に2つご紹介します。
「神奈川県立近代美術館」

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1951年に建てられ、坂倉建築の代表作でもあり、日本のモダニズム建築の祖と言っても過言でない素晴らしい建物です。太平洋戦争が終結して間もない当時、あらゆる物資が不足している中でのコンペ(競技設計)となったこの美術館は展覧会の中で当時の坂倉事務所の所員の方が
「物資の不足する中、他の設計者が鉄筋コンクリート造で大きく重い建築を提案する中、坂倉事務所はその当時に用意する事が出来る材料を使い、可能な限り材料が少なくて済むように考えて提案した」
と語っておられます。

柱は可能な限り細く、屋根や床を支える梁は大きな鉄骨材を使うのではなく細い鉄骨材をつなぎ合わせたトラス梁というものを採用しています。この使える物資が限られた中でこの素晴らしいモダニズム建築を作り上げた坂倉氏の凄さが伝わってくる素晴らしい建物です。
土地の賃借の問題でもしかしたらもうすぐ見る事が出来なくなってしまうかもしれないので行っていない方はお早めに…。

「日仏学院」
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神楽坂近くに建つフランス文化発信拠点の建物です。
館内の表示はフランス語で書かれて居たり、雰囲気はまるでフランスに来たかのような異国を身近に味わえるとても素敵な空間です。
さて、この建築の最大の見どころは「階段」です。

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道路に面する新館と旧館をつなぐ階段室はとてもユニークな形になっています。
上から見ると三角形をやや丸くしたような螺旋階段状になっていて上部のガラス屋根から光が降り注いでいるのですが、この階段のツボは登り口にあるのです。
なんと一つの階段なのに登り口が二つあるんです。
一つは解放された形で、もう一つはその階段の真下を通る隠された階段。
不思議な二重螺旋構造になっているんですね。

どうしてこんな形になったのかと言うと、完成当時の旧館部分は館長の私邸でした。
下側の閉じられた形で作られた階段はこの私邸で働く女中さんの通り道だったのです。
登り口は2つ並んでいるのですが、上の階段は新館側、下の階段は旧館側に出るようになっているのはこのサービス動線の為だったんですね。
この何度も登ってみたくなる不思議な階段を是非一度体験してみてください。

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