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2014.1.31

シンポジウム「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」【後】

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・・・前回のつづきです・・・

■コンペの要綱の問題

もともとこの新国立競技場のコンペは参加資格などで物議をかもしていました。
というのも、参加の要件の一つが「国際的な賞の受賞経験者」というものです。
通常コンペというのは参加の門戸は広く開かれているものですが、この要件の為に参加できる建築家はかなり限られていました。
大規模な施設の設計になるのでその経験が豊富な建築家を選ぶ為の要件とも考えられますが、これについては「同様な規模の施設の設計経験がある」という要件があったので事足りています。
つまり先の要件である「国際的な賞の受賞経験者」という要件は新競技場の「有名な建築家が設計した」という箔づけの為の要件のようにも見て取れるのです。

このコンペで周辺環境との関係を考慮する模型の提出は要求されておらず、周辺との関係を表す物は先の外観パース一枚だけでした。
つまりこのコンペを主催し、条件を設定した運営側にこの神宮外苑の歴史的価値に対する配慮がなされて居なかったと言う事になります。

規模は違いますが、私たち建築に携わる技術者は建物を設計するにあたり周辺の状況や環境を考え、周辺の建物との関係など敷地とその周辺から受ける影響を考え、常にそれに応じた提案ができるように敷地を見て、必要であれば何度も足を運び、そのうえでお客様に対してもっとも良いと考える提案を行います。

今回のような国際コンペではもちろん海外の建築家に対して周辺の環境や歴史的な流れを自分で調べて提案しろというのは時間的にも不可能な事ですのでコンペのプログラムを作る側はこれをしっかり考慮し、要求する建物の規模を決定し、参加者に対してはしっかり説明を行う義務があると思います。

■維持管理の問題

事実上、2020年のオリンピックの為に作られる今回の巨大なスタジアムですが、槇氏らは維持管理についても問題を指摘しています。
7年後のオリンピックを念頭に計画されている8万人の常設観客席ですが、このオリンピックの後これだけの数の観客席が埋まるようなイベントが一体どのくらい開かれるでしょうか?
この競技場は建てられれば7年後の「一時的なお祭り」の後も長く残り続けるものです。それには維持、管理のコストも掛かって来るのです。2002年のサッカーワールドカップの時に日本全国に建てられた競技場は現在、自治体がその維持費を捻出するのに苦労しています。命名権を売り買いしたりしていますが多くの施設が赤字になっているのが現状です。
槇氏らは規模を縮小し、必要なときは仮設の観客席を作る事で対応し、建設費や維持費の削減を図るべきだとも言っています。

今後日本はさらに人口が減る事が予想されており、この規模の施設を維持していくことが本当に10年後50年後の日本にとって良い事なのかを考える必要がありそうです。

このように今回色々な問題が指摘された新国立競技場ですが、今回のシンポジウムで一つ気になった事はこの競技場を計画した側の人々を誰も招いておらず、事実上の「反対集会」のようになって一方的に理論が展開されていた事です。
建築の計画に関してはこのような周辺環境や歴史的な流れの視点も確かに必要です。
しかしそれと同時に使う人(スポーツ選手や関係者)や施設を運営する人々それぞれの意見を聞き、すべての人が納得して使いやすい施設を目指すべきなのです。

今回のシンポジウムに寄せて、審査委員長であった安藤忠雄氏や設計者のザハ・ハディド氏などに対する批判などの声も上がっていましたが、私はそこは攻めるべき所では無いと思っています。
設計者はそのコンペの要求を満たす為の設計をしただけですし、審査員はその提案の優劣を見極め一等を決めただけに過ぎません。
「誰が悪かったのか」「誰に責任を取らせて辞めさせるか」ではなく、より良くするためにはどうしたら良いのか、それを議論する事が今求められている事なのだと思います。

もし、神宮外苑が「歴史的に相応しくない」のであれば「別の場所」という選択肢も十分にあると思います。
欧米では建築計画が発表されると周辺の住民だけでなく施設利用者や各業界団体がその計画に対し自分達の意見をある意味「好き勝手」に言い、実際に計画が変更になることも多々あります。
実際に、オランダのアムステルダム国立美術館の建て替えの時は様々な市民団体から意見が寄せられ、計画が二転三転し、館長や建築家の交代などもあり、2008年の公開予定が2013年にまでなってしまったという事もあります。

今回の競技場は東京オリンピックの、そして今後の日本のシンボルにもなる建築物です。
この新国立競技場の問題は我々建築界だけでなくスポーツ界や一般社会など広く意見が集められ、より良い方向に計画が修正され皆が納得して2020年を迎えられることを願っています。

池田大基

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